思いがけず誇らしげ


小学校の参観日。学校に着くといたるところで子どもたちの賑やかな声が響いている。休み時間の只中だ。

目当ての教室は3階。3階も同様、溌剌とした姿が廊下と教室にいり混じっていた。

一見して、男子はヘラヘラという印象。走る姿、仲間と話す姿がどうしようもなくヘラヘラしていて、屈託ない。かたや女子はヒソヒソ、ゲラゲラといった様子。親の目を気にしてチラチラ確認するところなんぞはやけに大人びてみえる。

やっぱり、男の子は幼いのかしらん。
 

「今は女の子のほうが、強くて積極的なのよ」

折に触れ男の子のお母さんは釘をさすような言い方をする。その度に女子としか暮らしていないわたしは「へえ」と思う。男子は家で「女はいちいちうるさいんだよ」とかなんとか愚痴っているのかもしれない。


廊下の向こうから数人の男子が大げさに「ウァー」と叫びつつ、されど、へらへらしながら走ってきた。どうやら、なにかの事情で数人の女子に追いかけられているらしかった。

逃げる場所を失った男子のひとりが観念したように走るスピードを落としたのとほぼ同時に追いついた女子は、

「なんでやらないの?」

男子の首根っこを掴みそのまま踵をかえした。

「女の子は強いね」「首根っこ掴まれてる光景なんて漫画でしかみたことないわ」

近くにいた母さまたちと笑いに笑った途端、ギョッとした。

首根っこをつかんだ女子は、なんとまあ、うちの子。

男子を追いかけてくる勢いも、首根っこを掴む素早さも見知らぬ姿であったが、あの声、あの服はまさしく、うちの子。

「て、手をはなしてー」

わたしは慌てて叫ぶ。その声に振り返った顔は思いがけず誇らしげ。ニヤリと笑みを浮かべた。

 
ギョッとはしたものの、見知らぬ女子が甘えんぼうの次女であったこと、じつを言えば悪い気はしなかった。

この目に映る娘だけが娘ではないことを自らに言い聞かせてきた。が、この先わたしの見知らぬ娘はどんな顔になってゆくのだろうか。楽しみでもあり怖くも感じた、5年前。
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